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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)5406号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成八年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  請求原因

一  被告は各種損害保険事業を営む株式会社である

二  有限会社A(以下「A」という。)と被告は以下の内容の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

1  保険の種類    火災保険

2  契約日      平成元年六月一六日

3  保険期間     平成元年六月一六日から同一一年六月一六日

4  保険金額     三〇〇〇万円

5  保険料      四二万五七〇〇円一括払い

6  保険目的の所在地 大阪府箕面市甲a丁目b番地のc

7  保険目的の建物  店舗・事務所・木・鉄骨造瓦亜鉛メッキ銅板葺三階建延床面積一九二平方メートル

8  被保険者     A

三  原告は昭和六〇年三月二五日、Aと信用組合取引契約を締結した。

四  Aは平成元年七月七日、右契約によって原告に現在及び将来負担する債務極度額四億八〇〇万円を担保するため、Aが被告との右保険契約によって有する債権に質権を設定し、同日、被告の承諾を得た。

五  原告は平成四年六月三〇日、Aに金四億一〇〇〇万円を以下の約定で貸し渡した

1  弁済期限     平成三四年六月五日

2  弁済方法     平成四年七月五日を第一回として、以後毎月五日に元利均等で三一五万二〇八〇円宛分割して弁済する。

3  利息       年八・五〇パーセント

4  利息支払期    平成四年七月五日を第一回として、以後毎月五日に一ヶ月分を後払いする。

5  期限の利益の喪失 Aが破産宣告を受けたとき

六  Aは平成五年七月二三日午前一一時大阪地方裁判所で破産宣告を受け、訴外吉岡一彦弁護士が破産管財人に選任された。

七  本件保険契約の目的建物は平成六年三月三一日に火災(以下「本件火災」という。)に遭って全損した。

八  原告はAに対し、右貸金につき、四億七一六万四六一五円の残元本債権を有するところ、平成八年二月二八日右質権に基づいて被告に対し、保険金三〇〇〇万円を請求したが、その支払を拒否された。

九  よって、原告は右質権に基づき、保険金三〇〇〇万円及びこれに対する催告の日の翌日である同年二月二九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  請求原因に対する認否及び主張

一  請求原因事実一ないし四、同六及び同七の各事実は認める。

二  同五の事実は知らない。

三  同八の事実のうち、原告が被告に対し、平成八年二月二八日右質権に基づいて保険金三〇〇〇万円を請求したが、被告がその支払を拒否した事実は認め、その余の事実は知らない。

四  本件火災は、本件保険契約の保険契約者かつ被保険者であるAの代表取締役であった訴外B(以下「B」という。)の放火によるものである。

従って、本件火災による損害は、火災保険普通保険約款二条一項(1)の「保険契約者、被保険者の法定代理人(保険契約又は被保険者が法人であるときは、理事、取締役または法人の業務を執行するその他の機関)の故意または重大な過失または法令違反」による損害に該当し、被告は保険金支払義務を負わない。

第四  被告主張に対する原告の反論

一  本件火災がBの放火によるものである事実は否認する。その余の主張は争う。

二  本件火災がBの放火であったとしても、右放火は本件保険契約者かつ被保険者が破産宣告を受けた後であるから、BはAの法定代理人ではなく、破産管財人がその法定代理人であり、被告主張は理由がない。

第五  判断

一  請求原因一ないし四、同六及び七の事実は当事者間に争いがない。

二  同五の事実は甲第四号証からこれを認めることができる。同八の事実のうち、原告がAに対し、四億七一六万四六一五円の残元本債権を有する事実は甲第七号証からこれを認めることができる。

よって、請求原因事実はすべて認めることができる。

三  被告主張のうち、本件火災がBの放火によるものである事実は乙第四号証からこれを認めることができる。

四  本件の争点は、破産宣告を受けたAの代表取締役であったBが本件火災発生時において、火災保険普通保険約款二条一項(1)の「保険契約者、被保険者の法定代理人」であったか否かという点である。

五  有限会社が破産宣告を受けた場合は会社は解散するが、その法人格は直ちに消滅しないで破産の目的の範囲でなお会社は存続する。破産宣告後は破産管財人が設置されるが、その権限は破産財団の管理、処分に限定され、それ以外の破産会社の行為は依然として取締役が破産会社を代表して執行することになる。問題は破産宣告によって従前の取締役は当然に退任するかどうかであるが、会社と取締役との間の法律関係は委任であるから、民法六五三条によると委任者である会社が破産した場合には委任は終了することになる。その理由とするところは破産会社の財産の管理処分権が管財人に専属するためにその委任の目的を達成できなることにあると考えられる。従って、破産会社の財産の管理処分以外の事務については当然に会社と取締役間の委任関係は終了せず、従前の取締役がその事務の遂行にあたると解される。また、取締役には会社を破産に至らしめた責任が問われるべきであり、その意味からも破産会社の財産の管理処分以外の事務については従前の取締役に遂行させるのが妥当である。

この点、取締役は会社の破産と同時に当然に退任するという考え方もあるが、それによると破産会社の取締役を選任する必要があるが、破産会社の取締役に就任する者を見つけることは至難であり、破産会社の財産管理処分以外の事務についてそれを行う者がいないこととなるおそれが大であり、不都合である。

以上から、BはAが破産宣告を受けた後もその取締役としての地位は失っておらず、火災保険普通保険約款二条一項(1)の「保険契約者、被保険者の法定代理人」ということができ、本件火災による損害は同人の故意によるものであるので、被告は免責され、保険金を支払う義務はない。

よって、原告の請求は理由がなく、棄却されるべきである。

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